木に寄り添う家、その中には もう一本のコンクリートの木が生えていた? ブナの木ハウス「House Bernheimbeuk」
ベルギーの首都ブリュッセルの北側に位置するスカールベークは、「ロバの都市」と呼ばれる。それは、ベルギービール「クリーク」の原料となるスミミザクラをロバで運んでいたからだそうだ。また、この地にはブナの木が多く自生し、ビールの麦芽を薫するときにも使われる。おいしいベルギービールの功労者であるブナの木を大事にしたい。きっとベルギーの人たちも、そう思っているはずだ。
限られた敷地に家を建てるとき、すでに植えられている樹木をどうするべきだろうか。日本でも、既存樹木の保全を誘導する自治体も増えているが、実際のところ、伐採してしまう方が予算が掛からず、建築計画に無駄がないとされる。ところが、ベルギーの建築設計事務所architecten de vylder vinck taillieuがデザインした住宅は、少し様子が違うようだ。
シングル葺きの屋根を突き破るように生えるブナの木が見える。よく見ると、ブナの木は家の中から生えているのではなく、軒の下から生えている。あくまで、外の環境を庭として取り込んでいる。ブナの木が、内部の生活空間に干渉しているわけではない。
この建物を支えるコンクリートの柱梁は、まるで樹木のように生えている。外のブナの木と対になるように生える柱からは、枝のように梁が伸びている。その梁の上に木製の床や屋根が乗っかり、生活空間を構成している。まわりは、軽量な外壁で断熱される。ブナの落ち葉が庭を覆う頃には、暖かく快適な家の中から季節の移り変わりを感じることができるだろう。
延床面積99㎡のミニマルな空間は、1階はダイニングとキッチン、2階はリビングと寝室に水回り、ロフトスペースもあり、低予算で効率的だ。
内外環境の関係性を考え抜いて、対話して、新しいカタチを生み出していくことは、我々にとって大事な営みだ。この「HouseBernheimbeuk」も施主と建築家とのコミュニケーションの結果、成立したカタチであることは想像に難くない。お金や時間に追い立てられながらも、普段から少しずつ、考え、対話をし続けることで、小さくても快適な空間を生み出すことができるのではないだろうか。